本気かギャグかわからない謎主張:「気」の字はGHQの陰謀だった?
これは本気で言っているのでしょうか? それともジョークなのでしょうか? 私も今回初めて知ったのですが、旧字体の「氣」が新字体で「気」になったのはGHQが日本弱体化のために行った陰謀だという主張が存在するらしいのです。なんでも「米」から「〆」にすることで、拡散するエネルギーを締めるんだとか…。
GHQが「氣」を「気」にしたのは、日本の底力を恐れたから。氣はエネルギーが八方に飛び散る。それを封印するために漢字が変更された。僕たちは氣づかぬうちに力を奪われてる。気と氣ではパワフルさが全く違う。こういう知識はあった方がいい。「元氣」と紙に書いて貼っておくのもいい。僕はそうしてる
— せーじ (@mind_master1981) June 23, 2021
②
— 食の未来を本気で考える一般人 (@Syoku_no_mirai) September 13, 2020
・これは「〆」を指す
・つまりエネルギーの流れを閉める
・GHQは氣から米を奪い、乄を入れることによって日本人の精神性を下げ、弱体化させることを目的として現在の「気」へと変更させた
・これは都市伝説でも何でもなく単なる歴史のお話
・そして、学校では絶対に教えてくれない歴史と漢字のお話
日本人を弱めるため、「 氣」」の米を「気」の〆(締める・封印する)に変えたと聞いています。
— まったり戦士 (@mattari_mypace) June 29, 2022
「靈」も同様に、旧字体は「巫女が口(祈りの言葉)で雨を降らせる」という意味が、口(祈りの言葉)を取って「霊」にした(干ばつにする)とも言われてます。
GHQが国力を弱めるためらしいです。
是非!“気”ではなく
— Pukka✨✨ (@Pukka71852144) June 30, 2022
【氣】にしていただきたいですわ〜❣️
GHQが日本人を弱めるために“気”に変えましたから#参政党しか勝たん
キホンのキ!氣と気の違いとは!?
— ダイスケ社長@健康の本質を伝える (@Daisuke_F369) January 24, 2022
气+米 or 〆
米は末広がりで八方に広がることを意味しています。エネルギーのあるべき姿は全身から放出されることである考えれば、本来の字は”氣”となる。
“気”は、〆(しめる)状態を表していて、エネルギーが押さえ込まれている様を表している。 pic.twitter.com/o5U0rYBjE3
そもそも、いつから”気”を使うようになったのか?
— ダイスケ社長@健康の本質を伝える (@Daisuke_F369) January 24, 2022
第二次世界大戦後、日本はGHQによって統治され、漢字の見直しが行われたことが始まりと言われています。教科書にも”気”が採用され、あっという間に”氣”は旧字として解釈されしまい、風化してしまったそうな。
氣は気にGHQに変えられました。
— さげさか大介🇯🇵(島田市議会議員 (@sagesakadaisuke) April 11, 2023
漢字が持つ本来の意味が大切なので氣を使っています☺

市議会議員までいますね。困ったものです。本気で言っているのか冗談なのか判断がつきかねるのですが、もちろんデマです。なんでGHQがそんな言霊みたいなことを信じてるのか意味不明だし、漢字一文字一文字に口出しするって、どれだけ日本語に詳しいんだよ、GHQ…。
江戸からあるぞ! 「気」の字体
戦後になって、学校の漢字のテストで活字と同じように書かないと×になってしまうので、手書きと活字の字形が違うという感覚が無くなりましたが、昔から手書きでは様々な略字が使われていました。戦後の新字体の多くは、そうした略字や草書が本字へと昇格したものです。「學」を「学」と書くのなんかも、戦後にいきなり作られたわけじゃなくて、戦前から手書きではそう書くことがよくあったんですよ。
「気」も例外ではなく、遅くとも江戸時代から使用例が存在します。こちら、天保2年(1831年)に出版された『魚鑑』という書物です。京都大学のデジタルアーカイブスで見つけました。

この左のページに「気」の文字がありますね。

これで江戸時代から「気」の自体が存在していたことが分かります。
大正にもあるぞ! 「気」の字体
さらに、こちら大正8年(1919年)発行の『や此は便利だ! : ポケツト顧問 改再版』という本です。国会図書館のアーカイブで見つけました。

ここに「筆記用略字または代用字」として「気」が載っています。

筆記用略字として、当時から使われていたことが分かりますね。
昭和にもあるぞ! 「気」の字体
さらにさらに、硫黄島玉砕戦の指揮官だった栗林忠道中将(映画『硫黄島からの手紙』で渡辺謙が演じていた人物)が、昭和3年~5年のアメリカ留学中に子供に送った絵手紙にも「気」の字を見つけることができます。(『「玉砕総指揮官」の絵手紙』(小学館)収録)


(昭和3年(1928年)の手紙)


(昭和4年(1929年)の手紙)


(同じく昭和4年(1930年)の手紙)
昭和初期の軍人が「気」の字を使っているんですから、「気」の字は日本弱体化のためのGHQの陰謀なんていう妄想がどれだけバカバカしいかわかりますね。
文豪も使ってるぞ! 「気」の字体
さらにさらにさらに、こちら佐藤春夫の直筆です。彼が大正8年(1919年)に書いた『思ひ出のなかから』の直筆原稿に「気」の字を見つけることができます。


こちらは菊池寛の『六宮姫君』の原稿です。やはり「気」の字が使われています。


まさか菊池寛や佐藤春夫が日本人弱体化を狙ってたとか言いませんよね?
とまあ、このように、「気」の字は戦前も普通に使われていたのです。どこの誰が「気」の字はエネルギーが云々とかGHQが云々とか言い出したのか知りませんが、よくもまあそんなアホなこと考えるものですね。(ちなみに「氣」の略字には「氕」というのもあり、芥川龍之介とか谷崎潤一郎とかの手書き原稿を調べたら「氕」を使っていました)
こんな意味不明な陰謀論を思いつく奴も凄いと思いますが、それを信じる奴も、どういう頭してるんですかね? まあ、詐欺事件の話なんか聞くと、「なんでそれ信じた!!??」って驚かされる事件が結構あるので、どんな変な話でも信じちゃう人はいるんでしょうね。
『魁!男塾』ってマンガで「ゴルフの始祖は呉竜府(ご・りゅうふ)」とか嘘歴史で当時の子どもたちを騙しまくっていましたが(私が生まれる前のマンガですが、多分当時信じていた読者は多かったんだろうなあ)、それと同じレベル。

(↑『魁!男塾』)
とはいえ、小学生ならまだしも、大人になってもまだ「『氣』が『気』になったのは日本弱体化のためのGHQの陰謀」なんて馬鹿げた話を信じちゃう人は、流石にちょっとおかしいと思います。みなさんはこういうバカな陰謀論に騙されないように気をつけてください。
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